ディレクター挨拶

 三年に一度の大規模な音楽フェスティバル「横浜音祭り」は4回目を迎えます。2019年の「横浜音祭り」が喝采の裡に幕を閉じてから現在までの二年半は、丸々コロナ禍に見舞われ、世界中のアーティストたちが活動を制限され音楽界にとって苦難の日々となりました。これまでの価値観や常識が大きく変わり、誰もが、人生について、自分について、ふと立ち止まって考えたのではないでしょうか。
 しかしどれほど厳しい状況にあっても、音楽が止まることは決してありませんでした。「奏でたい」「歌いたい」「聴きたい」という人々の想いが滞ることは一瞬たりともなかったのです。芸術の営みは、なんてしぶとく、素敵なのでしょう。
 今回のスローガンは、「みらいに響け みんなの音楽」。音楽が人と人とをつなぎ、未来への道をきり拓いていく。そんなイメージを横浜の街いっぱいに描きたいと思います。
 「横浜音祭り」は、公演数においてもジャンルの多様さにおいても、日本最大級規模の音楽祭として、国境や世代、ジェンダー、障がいの有無をこえて、すべての人に音楽を届けるフェスティバルを目指してきました。特に、次世代育成とインクルージョン事業のユニークさには定評があります。例えば、横浜市の中学生が自らプロデューサーとなって公演の企画制作・運営等に携わるプロジェクト、障がいのある方々自らが表現者となってプロの音楽家とコラボレーションする企画、外出のできない方々が最先端のテクノロジーを使ってコンサートスタッフとして働く機会を創出するなど、この分野における事業は毎回メディアからも注目を浴びています。
 またコロナ禍において大きなダメージを受けた市内の施設への支援として、さまざまな時間帯にライブをハシゴするように楽しむ「ライブホップ」企画や、横浜市全区の公共ホールに気鋭の音楽家たちの演奏を届ける「横浜18区コンサート」、日本のパイプオルガン発祥の地・横浜をクローズアップする「パイプオルガンと横浜の街」、街のいたるところで市民たちが主役となって歌い奏でる「街に広がる音プロジェクト」等々、横浜全体を心躍る音楽で満たします。
いつでも、誰でも、どこからでも、音楽にアクセスできるような音楽祭をみなさんと共に作っていきましょう。

(C)Tomok
新井 鷗子

横浜音祭り2022ディレクター

新井 鷗子

プロフィール

東京藝術大学音楽学部楽理科および作曲科卒業。NHK教育番組の構成で国際エミー賞入選。これまでに「読響シンフォニックライブ」「題名のない音楽会」「エンター・ザ・ミュージック」等の構成を手掛ける。東京藝術大学で障がいとアーツの研究に携わり、1本指で弾ける自動伴奏機能付きピアノ「だれでもピアノ®」(特許6744522)発明者の一人。著書に「おはなしクラシック」全3巻(アルテスパブリッシング)、「音楽家ものがたり」(音楽之友社)等。
横浜音祭り2013、2016、2019ディレクター。洗足学園音楽大学客員教授、東京藝術大学客員教授、横浜みなとみらいホール館長。